1PQ・MQとは? ― 売上を構造で見るための2つの指標

PQとMQは、もともと管理会計の世界で使われる用語です。提唱したのは西順一郎氏(ソニー出身のコンサルタント)。1970年代に提唱された「MQ会計」のフレームワークの中核を成す概念で、現在も中小企業から上場企業まで幅広く使われています。

シンプルに言うと、こうです。

PQとMQの定義

  • PQ(売上高) ―― P(Price=単価)× Q(Quantity=数量)
  • MQ(粗利合計) ―― M(Margin=1個あたり粗利)× Q(数量)
  • PQは「いくら売れたか」、MQは「いくら稼いだか」を表す
  • 経営判断で本当に見るべきはPQではなく MQ

「売上を上げる」「売上目標◯億円」――ビジネスの現場では、多くの数字が PQ(売上高) で語られます。決算書の一番上に来るのも売上高。しかし、PQをどれだけ追っても会社のキャッシュは増えません。

キャッシュを生むのは MQ(粗利合計) です。商品1個を売って残る粗利(M)に、売れた数量(Q)を掛けたもの。ここから固定費(F)を引いた残りが、最終的な利益(G)になります。

PQ(売上)
P × Q
VQ(変動費)
V × Q
=
MQ(粗利)
M × Q
F(固定費)
=
G(利益)

この「PQ→MQ→G」の流れを頭の中で計算できるようにするのが、PQ・MQ分析の本質です。難しい数式は一切出てきません。電卓があれば誰でもできます。

2P・V・M・Q・F・G ― MQ会計の6要素を整理する

PQ・MQ分析を使いこなすには、まず6つの要素を頭に入れる必要があります。すべてアルファベット1文字で表現されており、慣れれば意味が瞬時に出てくるようになります。

記号 名称 意味 具体例
P Price 1個あたりの販売単価 商品の販売価格(税抜)
V Variable Cost 1個あたりの変動費 仕入原価、外注費、決済手数料
M Margin 1個あたりの粗利(M = P - V) 商品1個あたりの儲け
Q Quantity 販売数量 売れた個数
F Fixed Cost 固定費(売上に関係なくかかるコスト) 人件費、家賃、広告費、システム月額
G Gain 最終利益(G = MQ - F) 営業利益・経常利益に相当

VとFを分ける意味

従来の損益計算書(PL)は「売上原価」と「販管費」を分けますが、MQ会計では V(変動費)とF(固定費) で分けます。この違いが決定的です。

  • 変動費(V) ―― 売れば売るほど比例して増える。商品を1個売らなければ発生しない
  • 固定費(F) ―― 売上ゼロでも発生する。人件費・家賃など、撤退しない限り消えない

たとえば「梱包資材費」はQに比例して増えるのでV。一方「倉庫の月額賃料」はQに関係なくかかるのでF。この区別ができると、「あと何個売れば固定費を回収できるか」が見えるようになります。

「売上原価」と「変動費」は別物

  • PLの売上原価は、仕入原価+直接費(製造業の労務費など)を含む
  • MQ会計のVは「1個売るごとに発生する原価」だけを厳密に取る
  • たとえば工場の固定的な人件費は売上原価に入っていても、MQ会計ではF扱い
  • この読み替えに最初は戸惑うが、慣れれば「経営判断に使える数字」に変わる

3PQだけを追うと利益が消える ― 「PQの罠」とは

「pq mq」「pq 売上」というキーワードで検索する人が一番知りたいのは、おそらくここです。なぜビジネス書はPQ(売上)だけ追ってはいけないと繰り返し言うのか。

具体的な数字で見てみましょう。

ケース:値引きで売上は伸びたが…

  • 通常価格 P=1,000円、変動費 V=600円、月販 Q=100個
  • つまり M=400円、PQ=100,000円、MQ=40,000円

「売上を1.2倍にしたい」と考えた経営者が、200円値引きを実施しました。価格弾力性が働き、数量は1.5倍に増えたとします。

// 値引き前 PQ = 1,000 × 100 = 100,000円 MQ = 400 × 100 = 40,000円 // 値引き後(P=800円、Q=150個) PQ = 800 × 150 = 120,000円 // PQは +20,000円 アップ! MQ = 200 × 150 = 30,000円 // MQは -10,000円 ダウン...

売上は20%伸びたのに、粗利合計は25%減りました。これが 「PQの罠」 の正体です。「数量が増えれば固定費を吸収できる」という直感は、Mが大きく削れる値引きの前では成立しません。

同じ仕組みは、値引き以外にも色々な場面で起きます。

PQが増えてMQが減る典型パターン

  • 値引き・クーポン ―― Pが下がるのにVは変わらず、Mが直撃する
  • ポイント還元 ―― ポイント原資が増え、実質的にPが下がる
  • 送料無料化 ―― 自社負担分の送料がVに上乗せされMが下がる
  • 低利益商品の販売拡大 ―― Mの低い商品にQが偏ると、平均Mが下がる
  • 高コストチャネルの拡大 ―― モール手数料の高いチャネルでQを増やすとVが上がる

逆に言えば、これらの罠を避けながらPQを増やせれば、MQは確実に伸びます。「売上を伸ばしてはいけない」ではなく、「Mを維持しながらQを伸ばす」。これがPQ・MQ分析の最初の教訓です。

44つの戦略軸 ― P戦略・V戦略・Q戦略・F戦略

MQ会計の真価は、「利益を増やすために何ができるか」を 4つの戦略軸 に整理してくれる点にあります。G(利益)を増やすには、P・V・Q・Fの4つの数字のどれかを動かすしかありません。

戦略 動かす数字 具体的な打ち手 難易度
P戦略 Pを上げる 値上げ、ブランド強化、付加価値追加、セット販売 高(顧客離れリスク)
V戦略 Vを下げる 仕入交渉、ロット拡大、内製化、配送費見直し、決済手段絞り込み
Q戦略 Qを増やす 広告投資、新規顧客獲得、リピート施策、新チャネル開拓 中〜高(Fが膨らみやすい)
F戦略 Fを下げる 業務効率化、自動化、不要なシステム解約、人員配置最適化 低〜中(即効性あり)

各戦略のインパクトは均等ではない

4つの戦略のうち、もっともインパクトが大きいのはP戦略です。なぜなら、Pを1円上げるとMが1円増え、Vは変わらないため、利益が丸ごと増えるからです。

// P戦略:単価100円アップ(Q=100個 維持) M = (P+100) - V → Mが100円増 MQ増加分 = 100 × 100 = 10,000円(利益も同額アップ) // Q戦略:数量を10個増やす(P・V不変) MQ増加分 = M × 10 (広告費・配送負荷など、Fも増えるため実利益は目減りしやすい) // F戦略:固定費を1万円削減 G増加分 = 10,000円(PQ・MQに影響なく利益が増える)

意外なことに、F戦略(固定費削減)は最もリスクが低く、即効性がある戦略です。1万円の固定費削減は、利益を1万円増やすことと同義。MやQを動かさずに利益が改善します。一方、「広告を増やしてQを伸ばす」というQ戦略は、Fを膨らませながらの戦いになり、見た目ほど儲かりません。

4戦略を使うときの優先順位

  • 1. F戦略 ―― まず無駄な固定費を削る。即効性とリスクの低さで圧勝
  • 2. P戦略 ―― 顧客離れを起こさない範囲で値上げ/付加価値追加
  • 3. V戦略 ―― 仕入・配送・手数料を粘り強く削減
  • 4. Q戦略 ―― 上記3つでMQの土台を固めてから、最後にQを増やす

多くの会社は逆に Q戦略から手を付け、「広告を増やせば売上が伸びる」と考えます。しかし広告費(F)が増えMの薄い商品で数量を稼ぐ構造になれば、PQは増えてもGは減ります。これが 「忙しいのに儲からない」 という典型的な状態の正体です。

5損益分岐点(BEP)をMQ会計で求める

「あと何個売れば黒字になるか?」――この問いに数字で答えるのが 損益分岐点(Break Even Point、BEP) です。MQ会計を使えば、損益分岐点はたった1つの割り算で求められます。

損益分岐点の公式

損益分岐点の販売数量 = F ÷ M

  • F:固定費(月額)
  • M:1個あたり粗利(P - V)

例:月の固定費50万円、M=2,000円の商品

// 損益分岐点 = 何個売れば黒字か? 損益分岐点Q = 500,000 ÷ 2,000 = 250個 // 売上ベースで言えば... 損益分岐点PQ = 250個 × P (P=3,000円なら 750,000円が損益分岐点売上)

つまり、月に 251個目を売った瞬間から黒字になります。逆に250個に届かなければ、いくらPQが大きく見えても会社は赤字です。

なぜPLでは損益分岐点が見えないのか

従来のPLは「期間累計」の数字で表示されるため、「あと何個売れば黒字か」を読み取れません。MQ会計が「1個あたり」で考えるからこそ、F ÷ M という単純な割り算で答えが出るのです。

F
固定費
÷
M
1個あたり粗利
=
損益分岐点Q
あと何個で黒字か

この計算ができると、経営判断が一気に変わります。「キャンペーンを打つかどうか」「広告を増やすかどうか」「新商品を投入するかどうか」――すべて 「損益分岐点をどう動かすか」 という視点で判断できるようになります。

6MQ会計表をExcelで作る ― 最小テンプレート

PQ・MQ分析は理論を知っていても、表にしないと使えません。Excelで作る最小限の MQ会計表 を紹介します。商品が増えても列を増やすだけで対応できます。

シンプルな単一商品の例

項目 記号 数式 例(A商品)
販売単価 P 直接入力 3,000
変動費 V 直接入力 1,000
1個あたり粗利 M =P-V 2,000
販売数量 Q 直接入力 300
売上高 PQ =P*Q 900,000
変動費合計 VQ =V*Q 300,000
粗利合計 MQ =M*Q 600,000
固定費 F 直接入力 500,000
最終利益 G =MQ-F 100,000
損益分岐点Q BEP =F/M 250

複数商品のMQ会計表

商品が増える場合は、列方向に商品を並べ、行方向にP・V・M・Q・PQ・MQ を並べます。最後の列に 合計 列を作り、PQ合計とMQ合計を出します。

// 列:A商品 / B商品 / C商品 / 合計 P 3,000 5,000 1,500 ― V 1,000 2,000 800 ― M 2,000 3,000 700 ― Q 300 150 500 ― PQ 900,000 750,000 750,000 2,400,000 MQ 600,000 450,000 350,000 1,400,000 F 1,200,000 G 200,000

この表があれば、「どの商品のMが高いか」「どの商品のQを増やすと利益が伸びるか」が一目で分かります。Mが低い商品(C商品)でQを増やしても、Mが高い商品(B商品)の半分しか効率が良くないことが見えるはずです。

MQ会計表でやってはいけないこと

  • VとFを混ぜない ―― 「総コスト」で1行にまとめると意思決定に使えなくなる
  • PをセールスMIXで平均化しない ―― 商品ごとにPを管理する。「平均単価」は経営判断を誤らせる
  • 過去実績だけでなくシミュレーション欄を作る ―― 「Pを変えたら/Qが増えたら」を即座に試せる構造にする
  • Mがマイナスの商品を放置しない ―― 売れば売るほど赤字になる商品は、表で見えれば撤退判断ができる

PQ・MQ分析は「数字の読み方」が変わるフレームワークです。決算書を眺めるだけでは決して見えない「1個あたりの利益構造」が、6つの記号と4つの戦略軸を持っているだけで、誰でも扱えるようになります。

もし自社の数字を P・V・M・Q・F・G に分解できないまま経営判断していると感じるなら、まずはMQ会計表を作るところから始めてみてください。「売上を増やす」から「MQを増やす」へ視点を変える――それだけで、見える景色は大きく変わります。

EC実務での「PQの罠」(値引き・クーポンによる粗利侵食)の具体的事例については、別記事 PQとMQの違いとは? ― 売上「P×Q」だけ追うと利益が消える本当の理由【EC管理会計】 でEC実務の数字を使って詳しく解説しています。